
“クリスタルバニラ”の類稀な香りを閉じ込めた、大人のクッキー缶
たぶん、ほとんどの人が人生で一番味わってきたお菓子のフレーバーは、バニラではないかなと思う。誰もが馴染みあるキング・オブ・定番フレーバーだからこそ、『TERROIR by Daichi Okuno』のバニラのサブレは衝撃だった。
クッキー缶なのに入っているのはバニラサブレ1種だけと、潔いほどシンプル。蓋を開けた瞬間、隙間から溢れ出す香りを嗅ぐのが幸せな瞬間なのだけど、嗅ぐまでもなく香りがわき立ち包み込まれた。どこかフルーティで甘い、なんとも豊かな香りは特別なバニラを使っているから。
それは「クリスタルバニラ」と呼ばれるバニラで、その名の通り、クリスタルのように鞘の表面にキラキラと結晶を纏っている。インドネシアの山奥で収穫直前まで完熟させたバニラで、バニラの香りの主成分、バニリンが通常のマダガスカルバニラの2倍以上にもなるという。飛び抜けて多いバニリンが、特殊な熟成をほどこすと凝縮されて、表面に結晶となって現れるのだそう。
奥野大智シェフは、そんなクリスタルバニラを鞘ごと粉砕して、砂糖に混ぜ込みバニラシュガーにし、生地が黒ずむほどたっぷり混ぜ込んでいく。実はバニラは鞘の方が種より香りが強く、鞘ごと混ぜ込むことで香りがグッと高まる。かといって入れすぎると鞘の苦味も出てくるので、そこはいい塩梅を見極めていくとか。
サブレの周りを薄氷のように覆う、カリッとしたグラス(糖衣)コーティングは自家製バニラリキュールを使ったもの。ウォッカにマダガスカルバニラ鞘を漬けている(マドレーヌに種を使ったバニラをリユース)そうで、ウォッカは無味無臭に近く、お酒に漬けることでバニラ香がしっかり移る。グラスだけでなく生地にもこのリキュールを忍ばせて香りのレイヤーを仕掛けるのも、お酒使いが得意な奥野シェフらしい。
一枚齧ると、ガリガリといい感じの歯応えはあるのにほろっと軽やかに消えてしまう。たちまちふわりとフルーティで心地よい、どこか妖艶さも秘めたバニラの豊かな香りが鼻を抜けていく。至福の芳香に、じっくり焼き込んだ粉の旨みやアーモンドのこうばしさも混じり合い、お馴染みのバニラの知らなかった領域へ。大人のバニラ体験、一度知ったらもうやめられません!






