
噛むほどに旨味が立ち上がる、足利マール牛のローストビーフ
「いい肉ってどんな肉?」という話を生産者や飲食店の方と交わしていると、最後は「すこやかな牛のお肉」という結論に着地することが多い気がします。単純に「A5がいい肉だよね」という話に着地することはまずありません。いい肉が結果としてA5という格付けを得ることはあっても、味はサシの入り方だけで決まるものではないからです。
おいしい牛肉は、赤身にしっかり旨味が乗っていること、肉の繊維が感じられること、そして脂の風味がふくよかで澄んでいること――
無数の牛肉を食べてきましたが、結局のところ肉の味わいの土台は、すこやかに育ったかどうかでほぼ決まります。サシの入った黒毛和牛も赤身がちな乳用種も、フレッシュも熟成肉も、土台がすこやかな肉だと、それぞれの個性が際立ちます。
そしてローストビーフはどんな名料理人でも、肉のポテンシャルを上回るのは難しいメニュー。肉の食感や味わい、脂の風味などが仕上がりにそのまま反映されるメニューです。
「Marc Kitchen(マールキッチン)」のローストビーフは、栃木県足利市の長谷川農場で育てられた「足利マール牛」の赤身を仕立てたもの。長谷川農場で1頭1頭ていねいに面倒を見た牛を、自社のレシピでローストビーフに仕立てています。
マール牛らしさが際立つ紅が差す赤身を特製のタレに漬け込み、表層近くに味を含ませます。一方、中心部は赤身のフレッシュな瑞々しさを保ったまま、全体にじわじわと火を入れていきます。
いい肉は加熱した方が断然おいしい。きっちりおいしくなる温度帯まで加熱するからこそ、赤身肉の味は膨らみ、心地よい噛み応えが生まれます。そこに歯を入れるたびに旨味がじんわり立ち上がり、肉の繊維の間から流れくるほのかなサシが肉のおいしさを増幅させます。
ブランド名にもなっている「マール」とはワインづくりの際に出るぶどうの搾りかすのこと。同じ足利市内のココ・ファーム・ワイナリーのマールを地元の精麦所が乳酸発酵させ、「ラクレージマール」という飼料に仕立てます。そこに足利産の大麦や大豆ふすま、自社農場産の稲わらなどをふんだんに給餌しています。
さらにそのマール牛の堆肥は、自社農場の米やアスパラガス、ナスはもちろん、ココ・ファームへと送られ、ワイン用ぶどうの肥料にもなっています。ココ・ファームから出るマールが牛の飼料に、牛から出る堆肥は長谷川農場の田畑へ還元され、そこで生産される稲わらがまた牛の口に戻る。テロワール(その土地独特の個性)を感じる、循環型農業とも言える農法で育てられているのです。
農場の畜舎を訪れたときも顔をそむけたくなるような臭いはなく、深呼吸したくなるようないい風が吹き抜けていきました。堆肥場に顔を近づけてもまったく同じ。十分発酵しているので、土のような落ち着いた香りが立ち上がります。
いい環境といい飼料でいい生産者に育てられた足利マール牛のローストビーフ。パーティの前日から冷蔵庫に移しての解凍がおすすめです。







